ほねをくれ

Memory 青春の骨なしチキン

髪を洗う(Tumblr時代の記事)

現在わたしの髪は、鎖骨の下数センチあるぐらいの長さである。自分ではセミロングだと思っていたけれど、美容師さん曰く「充分ロングヘアです」だそうな。美容師さんが言うならロングヘアで間違いない。 そのロングヘアに加え、美容師さん曰く「毛の量(本数)が多い」ので、髪を洗うのは時間と手間がかかる。 それなのに何故ロングヘアにしているのかというと、特に理由はない。 

かくして髪を洗うのがとてもめんどくさい。 だが、髪を洗ってから寝ないとどういうわけか次の日がひどい。 起きるのが朝だろうが昼だろうがすっきり起きられない。頭が痛い。目覚めて早々やたらと死にたい気持ちになる。意識があっちこっちに飛んでまとまらず、頭の中がやかましくて、体が動かない。 

原因は簡単で、髪を洗わないと頭が重くなるからだ。 

起きている間じゅうずっと増えていく「しんどいなー」「あれやったっけ」「今日の曜日は」「なんか通知きた」「今あっちの窓に虫が」「そこでコバエが死んでる」という思考の断片やら不要な意識やらがホコリのように髪の毛に絡まって、頭と体をどんどん重くする。 そうすると全身が容量オーバーになって、どれだけ寝ても次の日は動くのがきつい。 

というわけで、めんどくせーと思いつつ今日も髪を洗いに風呂場に行く。 体だけ洗うんじゃダメなのである。髪と頭に数分お湯をかけ、シャンプーで頭皮を洗い、コンディショナーで髪をそこそこサラサラにしてやらないとダメなのである。めんどくせー。ちょーめんどくせー。 


大量の長い髪の毛と思考と意識のホコリをどろどろ洗い流していると、ふと、風呂場の磨りガラスの向こうから視線を感じる。 心なしか、そこの磨りガラスに影みたいなのがある気がする。 そこを意識しつつ放っておくと、だんだん磨りガラスにぼんやり人の顔の形をした何かが見えるような気がしてくる。今日いるのは男かな女かな、若いかな年食ってるかな、出立ちは和風かな洋風かな、と思いながら髪を洗い終わって、ガラガラと風呂場の扉を開ける。 

当然、誰もいない。 

そりゃそうだ。一人暮らしなんだから。 

やっと洗い終わったと思いきや、髪を乾かすのをめんどくさがってタオルを頭に巻いたままでいると、だんだん頭皮が重くなってくる。頭に濡れた髪とタオルが巻きつけてあるのだから物理的に重いのだけど、なんかこう頭皮が縮むような感覚になる。だんだんそっちに意識が持っていかれるので仕方なくドライヤーで髪を乾かす。 

ドライヤーで髪をぶおーーーーっとなびかせていると、今度は視界の隅にある鏡あたりから視線を感じる。 毎回視界の隅のどこかに、人影みたいなのが見える気がする。 髪を手櫛でわっしゃわっしゃやりながらそちらに目を向ける。 

当然、誰もいない。 

そりゃそうだ。一人暮らしなんだから。 


ついでに言うとわたしに霊感というものは備わっていない。 さらに築年数が長いこのアパートにも特に曰く付きの何かがあるとは聞いていない。たぶんそういうのは特にない。 

じゃあ彼らはなんなのかというと、髪の毛にひっつくには重すぎたわたしの意識さんである。 髪の毛にひっつかないから部屋じゅうをうろついていて、わたしが髪を洗っている間、部屋にも散らばった思考や意識のホコリどもを回収しているのだ。 そして人のように見えるぐらいでっかくなったところで、髪に残っている水分と一緒にドライヤーの温風で蒸発する。

これで今日のぶんの心のゴミにさよならである。 ようやく次の日まともに動ける頭と体になる。 



賢明な読者諸氏はお気付きだと思うが、これはすべてわたしの妄想である。 髪を洗うことで次の日動けるようになるのは、おそらく「首と肩が温められることで血流が良くなり、肩凝りが解消されるから」である。パソコンばかりいじっているがゆえにこんな体質になってしまったというだけの話だ。 

得体の知れない人影みたいな意識さんはもしかしたら幽霊さんかもしれないが、幽霊さんに遭遇した経験がないのでわからない。「ホラー映画や小説を追体験しようとしている」という自覚があるので結局自分の脳みその片隅でこっそり動いているアプリみたいなものなんだと思う。て言うか絶対そうだろ。だって人影の外見のほとんどがウーマン・イン・ブラックの幽霊かインシディアスの死者たちだもん。